米国医療に高まる国民の不満 医療費高騰と制度改革で病院が迎える「試練の秋」

アメリカの医療機関が、この秋、大きな転換点を迎えようとしている。

2026年秋には、大規模な医療制度改革による影響に加え、医療保険業界を震撼させたCEO殺害事件の裁判や中間選挙が予定されており、医療費や医療制度に対する国民の不満が再び大きく注目される見通しだ。

医療機関は2027年以降に本格化するメディケイド削減への備えを進めているが、それ以上に懸念されているのは、患者や有権者から向けられる厳しい視線である。

医療の質だけではなく、「医療費はなぜこれほど高いのか」という問いが、病院そのものへ向けられる時代に入りつつある。

目次

医療費を負担できない人が増加

アメリカでは医療費の負担が年々重くなっている。

West HealthとGallupが公表した最新のHealthcare Affordability Indexによると、必要な医療や薬を継続的に負担できている人は全体の49%にとどまり、調査開始以来で最低水準となった。

2022年には61%が「医療費を問題なく支払える」と回答していたが、その割合は年々低下している。

さらに2024年から2025年のわずか1年間で約280万人が「医療費を十分に負担できる層」から外れたと推計されている。

これまで比較的影響が少ないと考えられてきた高齢者にも変化がみられ、65歳以上で医療費負担に不安がない人の割合は2021年の73%から61%まで低下した。

医療費の問題は低所得層だけの課題ではなく、中間所得層や高齢者にも広がり始めている。

「病院の料金が高すぎる」が最大の関心事に

医療費への不満は、制度そのものの見直しを求める声へと変わりつつある。

Century Foundationが有権者約2,000人を対象に実施した調査では、3人に2人が新たな公的医療保険制度の創設、あるいは医療制度全体の抜本改革を支持した。

また53%が、この1年間で医療費のために受診を控えたり借金をした経験があると回答している。

特に注目されたのは、医療費削減策として何を優先すべきかという質問への回答である。

67%の有権者が「病院による過剰な料金請求を抑制すること」を最優先課題として挙げた。

これはサプライズ請求の禁止や保険会社への規制、事前承認制度の見直しなど、他の政策を上回る結果だった。

さらに共和党支持者、民主党支持者の双方で高い支持を集めており、病院への厳しい視線は党派を超えて広がっていることが分かる。

医療保険会社だけでなく病院にも向かう批判

これまでアメリカでは、高額な医療費の原因として製薬企業や医療保険会社が批判の対象になることが多かった。

しかし近年は状況が変わり始めている。

Century Foundationは、2006年から2023年にかけて病院の価格上昇率が医薬品価格や保険料の上昇率の約2倍だったと指摘している。

さらに病院グループの大型統合やロビー活動の活発化も進んでおり、病院経営そのものへの関心が高まっている。

医療費高騰の責任は一部の業界だけではなく、病院も含めた医療システム全体にあるという認識が広がりつつある。

「ルイジ・マンジョーネ裁判」が再び医療制度への議論を加速

2026年秋には、医療制度への不満を象徴する出来事も控えている。

9月には、2024年12月にUnitedHealthcareのブライアン・トンプソンCEOを殺害したとして起訴されているルイジ・マンジョーネ被告の州裁判が始まる予定だ。

事件そのものだけでなく、被告に対して多額の寄付が集まり、一部で支持の声まで上がったことはアメリカ社会に大きな衝撃を与えた。

その背景には、医療保険制度や医療費への長年の不満が存在すると指摘されている。

裁判が始まれば、医療制度そのものへの議論が再び全米で活発化する可能性が高い。

中間選挙でも医療費が主要争点に

11月の中間選挙でも医療政策は重要な争点になるとみられている。

近年の世論調査では、医療問題は再びアメリカ国民が最も懸念する国内問題の一つとなった。

候補者の多くは医療費負担の軽減や価格透明化、病院の統合問題などを政策の柱として掲げ始めている。

病院経営者にとっては、制度改革だけでなく世論への対応も経営課題になりつつある。

価格設定や請求の透明性、地域医療への貢献を十分に説明できるかどうかが、今後の信頼維持を左右する可能性がある。

「試練の秋」が医療の未来を左右する

2027年には約1兆ドル規模とされるメディケイド削減の影響が本格化する見込みだ。

しかし、多くの病院経営者が直面する最初の試練は、その前に訪れる2026年秋かもしれない。

医療制度改革、医療費高騰への国民の不満、そして政治的議論が重なるなかで、病院はこれまで以上に社会から説明責任を求められることになる。

医療機関にとって今後重要になるのは、経営の効率化だけではない。

地域社会から信頼され、「なぜこの医療費が必要なのか」を患者に納得してもらえる透明性をいかに示せるかが、これからの医療経営を左右する大きな鍵となりそうだ。

出典
Becker’s Hospital Review
「Hospitals brace for a fed-up fall」

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