高齢者の「薬の飲み過ぎ」が新たな医療課題に 広がるポリファーマシーと減薬の重要性

高齢化の進展とともに、「薬を飲み過ぎること」が新たな医療課題として注目されている。

高血圧や糖尿病、脂質異常症、心疾患など複数の慢性疾患を抱える高齢者では、複数の診療科から薬が処方されることも珍しくない。その結果、必要以上に多くの薬を服用する「ポリファーマシー」が世界的に増加している。

薬は病気の治療に欠かせない一方で、種類が増えるほど副作用や薬剤同士の相互作用による健康被害のリスクも高まる。近年では、不要な薬を見直す「減薬(デプレスクライビング)」の重要性が医療現場で広く認識され始めている。

目次

高齢者の4割以上が5種類以上の薬を服用

ポリファーマシーとは、一般的に高齢者が5種類以上の薬を継続的に服用している状態を指す。

2024年にJAMA Internal Medicineへ掲載された研究によると、アメリカでは5種類以上の薬を服用する65歳以上の高齢者の割合が、2000年の24%から2020年には40%を超え、この20年間でほぼ倍増した。

また、米疾病対策センター(CDC)のデータでも、60歳以上の約35%が毎日5種類以上の薬を服用していることが報告されている。

高齢になるほど複数の疾患を抱えやすくなるため、薬が増えること自体は珍しいことではない。しかし、その一方で薬の数が増えるほど管理は複雑になり、医療安全上の課題も大きくなる。

薬が増えるほど副作用リスクも高まる

ポリファーマシーの最大の問題は、副作用や薬物相互作用が起こりやすくなることである。

加齢に伴って肝臓や腎臓の機能は低下し、薬の代謝や排泄能力も変化する。そのため若い世代では問題にならない量でも、高齢者では副作用が強く現れることがある。

代表的な有害事象には、転倒、意識障害、せん妄、ふらつき、腎機能障害などが挙げられる。

さらに、服用する薬が1種類増えるごとに有害事象のリスクも高まることが複数の研究で示されている。

特に退院直後は薬の内容が変更されることが多く、最も注意が必要な時期とされる。

実際、病院への再入院の約20%は薬剤関連有害事象が原因と推計されており、医療の質や安全性を左右する重要な課題となっている。

「薬を減らす」は処方するより難しい

こうした背景から近年注目されているのが「デプレスクライビング(減薬)」という考え方である。

減薬とは、不要になった薬や患者にとって利益よりもリスクが大きくなった薬を慎重に中止・減量する医療行為を指す。

しかし、専門家は「薬を減らすことは単純に処方を止めればよいという話ではない」と指摘する。

患者ごとに病状や生活環境、服薬歴は異なり、ある患者では必要な薬が別の患者では不要となることもある。

そのため減薬には、新たな診断能力やリスク評価、患者との十分な対話など、通常の処方とは異なる専門的なスキルが求められる。

医師だけでは解決できない「チーム医療」

ポリファーマシーへの対応では、多職種による連携が不可欠とされている。

高齢患者は複数の専門医を受診しているケースが多く、それぞれが別々に処方を行うことで薬が増えてしまうことが少なくない。

さらに、異なる病院や診療所の電子カルテが共有されていない場合、全ての服薬状況を把握することは容易ではない。

専門家によれば、患者が服用する薬を一つひとつ確認するには最大1時間程度かかることもあるが、外来診療時間は平均15分程度しかない。

こうした状況では、医師だけで全てを管理することは現実的ではない。

薬剤師による服薬確認、看護師による服薬指導、介護職や家族による日常管理など、多職種が連携して初めて安全な薬物療法が実現できる。

医療制度も「薬を増やしやすい構造」

ポリファーマシーが増加する背景には医療制度の課題もある。

現在アメリカでは2万4,000種類を超える処方薬が承認され、毎年約50種類の新薬が追加されている。

一方で、新薬の開発や臨床試験には大きな資金が投じられる一方、薬を減らすための研究や診療報酬は十分とは言えない。

医療機関にとっても、新たな薬を処方する仕組みは整備されている一方、減薬に時間をかけても十分な評価を受けにくい現状がある。

こうした制度面の課題も、ポリファーマシー対策を難しくしている要因の一つとなっている。

医療教育も「薬を管理する時代」へ

近年では、医療教育そのものにも変化が生まれている。

アメリカでは2019年に「U.S. Deprescribing Research Network」が設立され、減薬に関する研究や若手研究者の育成が進められている。

また、カナダでは2016年から全国規模の減薬ネットワークが活動を開始し、2023年には医学部教育へポリファーマシーや減薬を体系的に組み込むための教育フレームワークを策定した。

これまでは「どの薬を処方するか」が医学教育の中心だったが、今後は「どの薬を減らすべきか」も同じくらい重要な知識として位置付けられつつある。

患者自身の理解も重要な時代に

専門家は、医療者だけではなく患者自身が薬について理解を深めることも重要だと強調している。

服用中の薬の名前や目的、副作用を理解し、サプリメントを含めた服薬内容を記録しておくことは、安全な薬物療法につながる。

また、副作用が現れた時期や服薬時間との関係を記録することで、医療者も適切な判断を行いやすくなる。

薬は「多ければ安心」というものではない。

一人ひとりの病状や生活の質に合わせて、本当に必要な薬を見極めることが、超高齢社会を迎えるこれからの医療ではますます重要になっていく。


出典
AAMC(Association of American Medical Colleges)
「The problem with polypharmacy」

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