医療従事者に多い悪夢の背景には何があるのでしょうか。夢の研究者や臨床心理学者への取材をもとに、ストレス、モラルインジャリー、睡眠との関係、悪夢への対処法を紹介します。
医療従事者に共通する「悪夢」とは
医療従事者が見る悪夢には、いくつかの共通したパターンがある。
患者の治療がうまくいかない、患者を見失う、病院内で目的地にたどり着けない、必要な医療機器が見つからない、診療の準備が整わないまま勤務を始めるなど、実際の医療現場に関連した内容が数多く報告されている。
オンラインコミュニティでも、「患者へ薬を投与し忘れる夢」「手術室へ向かう途中で迷子になる夢」「制服が見つからず裸のまま回診する夢」など、医療従事者ならではの体験が数多く共有されている。
強い責任感とストレスが夢に現れる
ハーバード大学医学大学院の臨床心理学者で夢研究者のDeirdre Barrett氏は、医療は「悪夢を最も生みやすい職業の一つ」だと指摘する。
患者の命を預かる責任や、常に迅速な判断を求められる環境では、日中の不安や緊張が夢の中でも繰り返し表現されやすいという。
新型コロナウイルス感染症の流行時には、医療従事者が大量の昆虫やゴキブリ、津波、地震などに追われる夢を見るケースも報告された。これらは感染症そのものや極度のストレスを象徴する夢として解釈されている。
また、2022年に発表されたスイスの研究では、医学生の夢は身体的な危険よりも、自身の能力不足や専門職としての自信を失うことへの不安を反映する内容が多かったと報告されている。
REM睡眠と「繰り返す悪夢」の関係
ボストン大学医学部の神経科学者Patrick McNamara氏は、悪夢は感情の整理が十分に行われていない状態と関係している可能性があると説明している。
通常、脳はREM睡眠中にストレスや感情的な出来事を長期記憶へ整理していく。しかし睡眠不足や睡眠の質の低下によってREM睡眠が妨げられると、その処理が途中で止まり、同じ悪夢を何度も見る原因になり得るという。
また、人は夢の中で「もしあの時こうしていれば」という仮想的なシミュレーションを繰り返すことで経験から学習している可能性も指摘されており、医療従事者では診療上の判断や患者対応に関する内容が夢として現れやすいと考えられている。
モラルインジャリーも悪夢の背景に
記事では、近年注目されている「モラルインジャリー(Moral Injury)」にも触れられている。
精神科医のWendy Dean氏は、利益や経営効率を優先せざるを得ない医療環境の中で、患者にとって最善と思う医療を十分に提供できない経験が、医療従事者の精神的苦痛につながる可能性があると指摘している。
こうした葛藤が十分に解消されない場合、怒りや無力感、裏切られた感覚などが夢の中にも表れ、慢性的なストレスや悪夢につながることがあるという。
医療現場ではバーンアウトが長年問題視されてきたが、近年ではモラルインジャリーという概念も、医療従事者の心理的負担を理解する重要な視点として注目されている。
悪夢への対処法として専門家が勧めること
専門家は、悪夢そのものよりも「夢が何を象徴しているのか」を考えることが重要だとしている。
十分な睡眠時間を確保し、REM睡眠を妨げる生活習慣を見直すことに加え、悪夢の内容を書き換えて繰り返しイメージする「イメージリハーサル療法」や、信頼できる同僚と夢について話し合うことも有効な方法として紹介されている。
また、職場で感じる葛藤やモラルインジャリーについて一人で抱え込まず、周囲と共有しながら改善を目指すことも、精神的負担の軽減につながる可能性があるとしている。
出典
Medical Economics
Naked on Rounds, Lost in Hallways: Why Docs Have Bad Dreams


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