IUD(子宮内避妊具)挿入時の痛みを、子宮内に局所麻酔薬メピバカインを注入することで軽減できる可能性が、370人を対象とした無作為化比較試験で示されました。平均疼痛スコアはプラセボ群58.6mmに対して43.8mmまで低下。外来で実施しやすい疼痛対策として注目される一方、対象者や他の鎮痛法との比較には課題が残ります。
IUD挿入時の「痛み」をどう減らすか
IUDは、一度装着すれば長期間にわたって避妊効果を得られる可逆的な避妊方法だ。
一方で、挿入時の痛みに対する不安は少なくない。JAMAに掲載された今回の研究でも、IUD挿入に伴う疼痛への懸念がIUDを選択しない理由になり得ることが研究背景として挙げられている。
特に出産経験のない人では、子宮頸部を通してIUDを子宮内へ挿入する過程で強い痛みを感じることがある。
そこで研究チームが検証したのが、局所麻酔薬を子宮内へ直接投与する方法だった。
2026年9月17日にJAMAで発表された無作為化比較試験では、局所麻酔薬メピバカインをIUD挿入前に子宮内へ注入することで、実際に疼痛を軽減できるかが検証された。
スウェーデンの11施設、370人を無作為化
試験は2021年5月から2024年6月にかけて、スウェーデン国内の婦人科外来、母子保健施設、ユースクリニックなど11施設で実施された。
対象となったのは18~31歳の未経産者で、平均年齢は両群とも21.7歳だった。
参加者は合計370人。
メピバカイン群とプラセボ群に1対1で無作為に割り付けられ、それぞれ185人となった。
使用されたIUDは、挿入チューブ径が比較的小さいレボノルゲストレル放出IUDまたは銅付加IUDだった。妊娠中の人、IUDの交換を行う人、骨盤内感染症がある人、局所麻酔薬にアレルギーがある人などは対象から除外された。
さらに、参加者だけでなく処置を行う医療従事者、評価者にも割り付けが分からない二重盲検で実施された。
疼痛という主観的な指標を扱う研究だからこそ、どちらの治療を受けているかという期待が評価に影響しにくい設計が採用されている。
IUD挿入の2分前、子宮内に局所麻酔
方法は比較的シンプルだ。
メピバカイン群では、IUDを挿入する2分前に20mg/mLのメピバカイン10mLを子宮内へ投与した。
対照群には同じように生理食塩水を投与した。
薬液の投与には、ハイドロソノグラフィー用のカテーテルが使用された。
つまり、今回検証されたのは注射によって子宮頸部周辺を麻酔する方法ではない。
細いカテーテルを使って局所麻酔薬を子宮腔内へ直接注入し、その2分後にIUDを挿入するという方法だ。
この簡便さは、今回の研究結果を実際の外来診療へ応用できるかを考えるうえで重要になる。
痛みは「58.6」から「43.8」へ
主要評価項目となったのは、IUD挿入時に感じた痛みだった。
参加者は痛みを0~100mmのVisual Analog Scale(VAS)で評価した。
結果は明確だった。
IUD挿入時の平均疼痛スコアは、プラセボ群で58.6mmだったのに対し、メピバカイン群では43.8mmだった。
単純な群間差は14.8mm。
処置を担当した医療従事者による影響を調整しても、メピバカイン群では平均14.2mm低い結果となり、統計学的にも有意だった。
痛みそのものがなくなったわけではない。
しかし、「局所麻酔をしてもほとんど変わらなかった」という結果でもない。100mmの疼痛尺度上で、明確な群間差が確認された。
「耐えられる痛み」と答えた人も増加
研究チームは数値としての疼痛だけでなく、参加者自身がその痛みを「耐えられる」と感じたかについても調べた。
メピバカイン群では175人中172人、**98.3%**が挿入時の痛みを耐えられると回答した。
一方、プラセボ群では174人中159人、**91.4%**だった。
この結果から算出されたNNT(治療必要数)は15だった。つまり今回の試験条件では、メピバカインを15人に使用すると、プラセボと比べて1人多く「耐えられる痛み」と評価する計算になる。
単純に疼痛スコアを下げるだけでなく、実際に処置を受ける人がどう感じたかにも違いが確認されたことになる。
迷走神経反応も少なかった
安全性について、JAMAの研究サマリーでは重篤な有害事象は発生しなかったと報告されている。
興味深いのは、迷走神経反応にも群間差がみられたことだ。
メピバカイン群では178人中14人、**7.9%**だったのに対し、プラセボ群では176人中32人、**18.2%**だった。
IUD挿入では、痛みや子宮頸部への刺激などに伴い、めまい、吐き気、血圧低下などの迷走神経反応が起こることがある。
今回の研究は迷走神経反応の予防効果を主要目的として設計された試験ではないため、この結果だけでメピバカインがその発生を防ぐと断定することはできない。
それでも、疼痛スコアだけでは捉えられない処置中の身体反応にも違いがみられた点は興味深い。
「痛みを我慢する処置」から変わる可能性
IUD挿入時の疼痛対策には、これまでもさまざまな方法が検討されてきた。
しかし、すべての方法が十分な効果を示しているわけではなく、手技が複雑だったり、患者自身に別の痛みを与えたりする方法もある。
今回の方法では、IUD挿入前にカテーテルを使ってメピバカインを子宮内へ投与し、2分待つという比較的単純な手順が採用された。
JAMAの著者らも、この方法がIUD挿入時の患者体験を改善するシンプルなアプローチになり得るとしている。
疼痛管理が改善すれば、単に処置当日の負担を減らすだけではない。
「挿入が痛そうだからIUDを選ばない」という心理的な障壁を小さくし、避妊方法について本人がより自由に選択できる環境につながる可能性もある。
ただし「IUDを挿入するすべての人」で証明されたわけではない
今回の結果を一般化する際には、いくつか重要な限界がある。
まず、対象は18~31歳の未経産者だった。
さらに使用されたのは、比較的小さい径の挿入チューブを使用するIUDだった。
そのため、出産経験のある人、より幅広い年齢層、異なるタイプのIUDなどでも同程度の効果が得られるかは、この試験だけでは判断できない。
また、IUDの挿入自体が成功しなかったケースがあったため、全参加者を完全なintention-to-treat解析に含めることができなかった。
研究では、挿入の難易度、参加者の不安の程度、薬液投与に使用したカテーテル先端の正確な位置を超音波で確認することなども評価されていない。
他の鎮痛法より優れているかは分からない
もう一つ大きなポイントがある。
今回比較されたのは、メピバカイン対プラセボだ。
別の有効な疼痛管理法との直接比較ではない。
そのため、この研究から「IUD挿入時にはメピバカインが最も優れた鎮痛法である」と結論づけることはできない。
JAMAの研究サマリーでも、他の疼痛管理法と比較していないことが研究上の限界として明記されている。
今後は、既存の局所麻酔法などとの直接比較に加え、どのような患者で特に利益が大きいのかを検証する必要がある。
「痛みは仕方がない」を見直すデータ
今回の研究が示したのは、IUD挿入を完全に無痛にできるということではない。
メピバカインを使用した場合でも、平均疼痛スコアは43.8mmだった。
それでも、370人を対象とした二重盲検無作為化プラセボ対照試験で、子宮内への局所麻酔によって疼痛が有意に低下し、処置を「耐えられる」と評価した割合も増えた。
しかも、その方法は10mLの局所麻酔薬をカテーテルから子宮内へ注入し、2分後にIUDを挿入するというものだった。
IUDは高い避妊効果を持つ一方、挿入時の疼痛への不安が選択の障壁になることがある。
だからこそ今回の研究は、避妊具そのものの性能ではなく、「装着するときの体験」を改善することも医療の重要な課題であることを示すデータといえる。
今後、対象となる患者層を広げた研究や他の疼痛管理法との比較によって有効性と実用性がさらに確認されれば、IUD挿入時の疼痛管理に新たな選択肢が加わる可能性がある。
出典
JAMA
Intrauterine Mepivacaine Instillation vs Placebo for Pain During IUD Placement: A Randomized Clinical Trial


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