トランプ政権が打ち出した富裕層向け投資ビザ制度「ゴールドカード」が、想定していたほど海外の富裕層から支持を集められていないことが明らかになった。
制度は、100万ドル(約1.5億円)を米政府に拠出することで、米国居住権を優先的に取得できると宣伝されていた。しかし実際には、通常のビザより審査が早くなる保証はないことが、米国土安全保障省(DHS)の裁判資料で判明した。
さらに制度の合法性を巡る訴訟も起きており、世界の富裕層や移民専門家の間では慎重な見方が広がっている。
ゴールドカード制度とは?
トランプ大統領は2025年12月、新たな投資移民制度として「ゴールドカード」を発表した。
制度の特徴は、米政府へ100万ドルを“寄付”することで、米国居住権取得への道を開くという点にある。
従来の投資型ビザである「EB-5」は、米国内での投資や雇用創出が必要だった。一方、ゴールドカードでは事業投資などは求められず、資金拠出のみで申請資格を得られる仕組みとして注目された。
トランプ政権はこの制度について、
- 「記録的な速さ」
- 「数週間で承認」
- 「世界中の成功者を米国へ呼び込む」
とアピールしていた。
また、ハワード・ラトニック商務長官は当時、
- 発給目標は8万人
- 想定歳入は1000億ドル超
と説明し、米国財政にも貢献する大型政策として期待を示していた。
申請者は338人 期待を大きく下回る結果に
しかし、DHSが裁判資料で公開した内容によると、現時点でゴールドカードへの申請希望者は338人にとどまっている。
さらに、正式申請に必要な1万5000ドルの手数料を支払った人は165人だった。
当初の「数万人規模」という想定からは大きく乖離しており、市場の反応は限定的となっている。
背景には、
- 制度内容の不透明さ
- 法的リスク
- 審査スピードへの疑問
- 既存制度との比較
など、複数の不安要素があるとみられている。
「数週間で承認」は実現しない可能性
今回、特に注目を集めているのが「迅速審査」を巡る説明の食い違いだ。
ゴールドカード公式サイトでは、従来ビザよりも大幅に短い期間で承認されることが強調されていた。
しかしDHSは裁判資料の中で、
ゴールドカード申請者が、通常のビザ申請者より早く審査されるとは限らない
と説明した。
これは、制度の最大の売り文句だった“スピード取得”を事実上否定する内容とも受け取られている。
移民専門家らは、海外富裕層が最も重視するのは「確実性」と「時間」だと指摘する。
特に中国やインドなど、一部の国では米国ビザ取得まで長い待機期間が発生しており、「短期間で取得できる」という点がゴールドカード最大の魅力だった。
ニューヨークの移民コンサル会社Dasein Advisorsのリース・ジャフリCEOは、
「迅速審査がなければ、待機期間の長い国の富裕層にとって魅力は薄れる」
と述べている。
制度の合法性を巡る訴訟も発生
さらに、ゴールドカード制度そのものの合法性も争われている。
米国の大学教授団体「American Association of University Professors」は、
- 既存のEB-1・EB-2ビザ制度を圧迫する
- 能力主義に基づく移民制度を損なう
として提訴した。
本来、EB-1やEB-2は、
- 卓越した研究実績
- 特殊技能
- 国家利益への貢献
などが求められる高度人材向けビザだ。
しかしゴールドカードでは、100万ドルを支払うことで「特別な能力保持者」と自動的に認定される構造になっている。
原告側は、
「本来、能力によって選ばれるべきビザ制度が、資金力で置き換えられている」
と批判している。
「大統領令だけで移民制度を変更できるのか」が争点
今回の制度で大きな論点となっているのが、「大統領令だけで新たな移民制度を作れるのか」という問題だ。
米国では、本来移民制度を定める権限は議会にある。
しかしトランプ政権は、新法を成立させるのではなく、既存のEB-1・EB-2枠を活用する形でゴールドカード制度を導入した。
そのため専門家の間では、
- 法的根拠が弱い
- 政権交代で停止される可能性
- 裁判で無効化されるリスク
などが指摘されている。
富裕層にとって、永住権制度の安定性は極めて重要だ。
制度変更リスクが高い場合、100万ドル規模の資金拠出を避ける傾向が強いという。
既存のEB-5ビザには逆に追い風
一方で、既存の投資移民制度「EB-5」には逆に注目が集まっている。
EB-5は、
- 80万〜100万ドルの投資
- 10人以上の雇用創出
を条件に米国永住権取得を目指す制度だ。
ゴールドカードと異なり、支払った資金は事業投資として残る可能性がある。
移民専門家デービッド・レスペランス氏は、
「富裕層は単なる寄付より、投資として資産価値が残る制度を好む傾向がある」
と分析している。
また、グローバル富裕層の間では近年、
- 地政学リスク
- 富裕層課税の強化
- 政治不安
を背景に“第2の居住権”を求める動きが加速している。
コンサル会社Henley & Partnersによると、2026年に他国移住を検討している富裕層は16万5000人に達する見通しだ。
その中でも米国は依然として人気移住先の一つだが、今回のゴールドカード制度は、現時点ではその需要を十分取り込めていない状況となっている。
今後の焦点は「法的安定性」と「審査実績」
ゴールドカード制度が今後普及するかどうかは、
- 裁判の行方
- 議会承認の有無
- 実際の審査スピード
- 承認実績の積み上げ
が鍵になるとみられている。
現段階では、「富裕層向けの革新的制度」という当初の期待に対し、市場は慎重な姿勢を崩していない。
トランプ政権が掲げる“富裕層誘致政策”が本格的に機能するのか、今後の動向が注目される。
出典:Robert Frank, CNBC「Trump’s $1 million ‘Gold Card’ fails to catch on among the world’s wealthy」


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