アメリカ・ニュージャージー州の61歳男性が、高血圧をきっかけに食生活を大きく見直し、薬に頼らず健康状態を改善した経験をもとに、1000マイル(約1600km)を超える長距離自転車旅へ挑戦する。
彼の名前はカーク・チャールズ氏。認定パーソナルトレーナーであり、過去には『Men’s Health』誌でコラム執筆も行っていた人物だ。
一見すると「健康そのもの」に見える彼だったが、2017年、高血圧と診断された。その経験が、彼の人生と健康観を大きく変えることになった。
今回の挑戦には、
「特に黒人コミュニティにおける慢性疾患と食生活の関係に光を当てたい」
という強い目的がある。
彼は現在、
「食事そのものを医療として考えるべき時代」
だと訴えている。
“健康なはず”だった男性に訪れた高血圧診断
チャールズ氏は長年、運動を習慣化してきた。植物性中心の食生活も30年以上続けていたという。
しかし2017年、彼は高血圧と診断される。
本人にとって、それは大きな衝撃だった。なぜなら、自分では健康的に生活しているつもりだったからだ。
だが彼は後になって、ある変化に気づく。
「植物性中心とはいえ、加工食品やジャンクフードをかなり食べるようになっていた」
という事実だった。
つまり、
「植物性=健康」
では必ずしもなかった。
近年アメリカでは、“プラントベース”という言葉が広がる一方で、加工度の高い植物性食品も急増している。その結果、高塩分・高糖質・高脂肪の超加工食品を多く摂取するケースも増えている。
チャールズ氏は、自身の高血圧が単なる加齢ではなく、
「食生活全体の質」
と深く関係していた可能性を実感したという。
“ホールフード・プラントベース”へ完全移行
高血圧診断後、彼は食生活を根本から変えた。
取り入れたのは、
「Whole Food Plant-Based Diet(ホールフード・プラントベース食)」
と呼ばれる食事法だ。
これは単なるヴィーガン食とは異なる。特徴は、加工食品を極力避け、野菜や果物、豆類、全粒穀物を中心に食事を組み立てる点にある。精製糖や過剰な油もできる限り減らし、食材本来の形を重視する。
つまり、
「植物性であること」
だけではなく、
「加工度を下げること」
も重視する食生活だ。
彼はこの食事へ切り替えた後、血圧コントロールが改善。現在まで、
「薬を使わず血圧を維持できている」
と語っている。
“走る”から“漕ぐ”へ — 61歳の転機
2022年、チャールズ氏は膝を負傷する。長年続けてきたランニング継続が難しくなった。
そこで彼は、サイクリングへ本格転向する。
加入したのは、ニュージャージー州の「Major Taylor Cycling Club」。このクラブは黒人サイクリスト文化を象徴する存在として知られている。
ここで彼は、自転車競技だけではなく、
「健康を社会へ発信する手段」
としてサイクリングを捉えるようになった。
現在は1回4〜6時間のトレーニングを継続しており、今回の旅では1日80〜100マイル(約130〜160km)を走行予定だ。
61歳でこれだけの距離を走ること自体が、彼の健康改善を象徴している。
なぜ“黒人コミュニティ”へ向けて発信するのか
今回の活動で彼が特に重視しているのが、
「黒人コミュニティの健康格差」
だ。
米国保健福祉省 少数派健康局によると、アフリカ系アメリカ人は糖尿病、高血圧、心疾患、脳卒中などの慢性疾患リスクが高い傾向にある。さらに、がん死亡率も多くの分野で高水準となっている。
背景には単なる生活習慣だけではなく、医療アクセス格差や保険加入率の問題、経済格差、健康的な食品へのアクセス不足など、複雑な社会問題が存在している。
特にアメリカでは、
「Food Desert(フードデザート)」
と呼ばれる問題が深刻だ。
これは、健康的な食品を購入できるスーパーなどが少ない地域を指す。黒人コミュニティでは、こうした地域に住む割合が高いとされている。
つまり、
「健康的な食事をしたくても、環境的に難しい」
ケースが多い。
医師団体「Physicians Committee」のメディカルディレクター、ヴァニタ・ラーマン医師は、
「こうした健康格差は、単なる個人の問題ではなく、社会構造的な不平等が関係している」
と指摘している。
“Food as Medicine”という考え方
今回のニュースの中心には、
「Food as Medicine(食事は医療)」
という概念がある。
これは、
「病気になってから薬で治療する」
だけではなく、
「日々の食事そのものを治療・予防の一部として考える」
という考え方だ。
近年アメリカでは、医療費増大や慢性疾患急増を背景に、この概念が急速に広がっている。
特に高血圧、糖尿病、肥満、心血管疾患などでは、生活習慣改善の重要性が改めて注目され始めている。
記事内では、植物性中心の食生活に関する複数の研究も紹介されている。
特に注目されているのが、592人のアフリカ系アメリカ人を対象とした研究だ。この研究では、植物性中心の食事をしているグループで、血圧低下や糖尿病リスク低下、高血圧リスク44%低下などが確認された。
もちろん、食事だけですべての病気を防げるわけではない。
しかし近年は、
「慢性疾患の多くが生活習慣と強く結びついている」
ことが再認識され始めている。
「言葉ではなく、行動で示したかった」
チャールズ氏は今回の挑戦について、
「もし自分にできるなら、誰にでもできる」
と語っている。
彼は以前から健康について発信してきた。しかし、
「話すだけではなく、実際に行動で示したかった」
という思いから、この1600km超の旅を決意したという。
ルートはニューヨークからフィラデルフィア、ピッツバーグ、オハイオ州、インディアナ州などを経由し、6月5日にシカゴ到着を目指す。
彼は旅の様子をSNSでも発信予定だ。
医療費時代に“予防”が最大テーマになる可能性
今回のニュースは単なるスポーツ挑戦ではない。
背景には、
「予防医療への転換」
という巨大テーマが存在している。
アメリカでは現在、肥満、糖尿病、高血圧、心血管疾患などによる医療費増大が深刻化している。
その中で、食生活改善や運動習慣、睡眠、ストレス管理などを医療政策へ組み込む流れが強まっている。
つまり今後は、
「病気を治療する医療」
だけではなく、
「病気を防ぐ医療」
がより重要になる可能性がある。
まとめ
高血圧をきっかけに食生活を見直した61歳男性が、1600kmを超える自転車旅を通じて、
「食事と健康の関係」
を社会へ訴えようとしている。
背景には、黒人コミュニティにおける慢性疾患リスクや、医療アクセス格差といった社会課題も存在する。
近年は、
「Food as Medicine(食事は医療)」
という考え方が世界的に広がっており、植物性中心の食生活や運動習慣改善が、慢性疾患予防の重要テーマになり始めている。
今回の挑戦は単なる自転車イベントではなく、
「生活習慣そのものが未来の医療を変える可能性」
を示す象徴的な取り組みとして注目されている。
出典
- Physicians Committee for Responsible Medicine
- U.S. Department of Health and Human Services Office of Minority Health
- Journal of the American Heart Association
- Adventist Health Study-2


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