骨を目指す幹細胞治療、骨粗しょう症患者10人で骨折94%減――初のヒト試験

患者自身の骨髄由来間葉系幹細胞を「骨へ向かいやすく」加工して静脈投与する、新しい骨粗しょう症治療の初回ヒト試験がCellに報告されました。進行した骨粗しょう症の女性10人では、治療前後2年間の比較で脆弱性骨折の発生が94%減少し、骨組織や骨密度にも改善が確認されました。ただし、対照群のない第1相・10人規模の試験であり、有効性の確立にはより大規模な比較試験が必要です。

目次

幹細胞に「骨への行き先」を与える

骨粗しょう症の治療に、患者自身の幹細胞を利用する。

発想そのものは新しいものではない。しかし、これまで大きな問題になっていたのが、静脈から投与した細胞を骨へ十分に到達させることだった。

間葉系幹細胞・間葉系間質細胞(MSC)は骨形成に関与する能力を持つ一方、血液中から骨組織へ移動する「bone-homing(骨へのホーミング)」能力が十分ではない。

今回Cellに発表された研究では、この弱点そのものを改変した。

研究チームは、患者自身の骨髄から採取したMSCの細胞表面を「glycocalyx editing(グリコカリックス編集)」という方法で加工。sialylated Lewis X(sLeX)という糖鎖構造を発現させることで、細胞に骨髄へ向かう性質を持たせた。

いわば、再生能力を持つ細胞に「骨という目的地」を認識させる仕組みだ。

患者自身の細胞を加工し、1回だけ静脈投与

今回実施されたのは、こうした細胞を骨粗しょう症患者へ投与する初回ヒト臨床試験だ。

対象となったのは、進行した骨粗しょう症を持つ女性10人。

患者自身の骨髄由来MSCを採取して培養し、細胞表面を加工したうえで、1回の静脈内投与を行った。

試験では投与後2年間、臨床評価や画像検査に加え、骨代謝マーカー、骨組織面積、骨密度などを評価。その後も3年以上にわたり、骨折と安全性の追跡が継続された。

つまり、単に「幹細胞を投与して骨密度を測った」という試験ではない。

骨の組織学的変化から実際の骨折まで、複数の指標を長期間追跡したことが特徴となっている。

治療前後2年間で骨折が94%減少

最も目を引く結果が、脆弱性骨折の減少だ。

10人全体では、治療前2年間に年間8件の脆弱性骨折が発生していた。

ところが、細胞を投与した後の2年間では年間0.5件まで減少した。

減少率は**94%**に達する。

さらに長期追跡でも骨折の減少は維持された。

約6年間にわたる追跡では、骨折発生率は治療前の患者1人・1年あたり0.54件から、0.11件まで低下していた。

骨粗しょう症治療で重要なのは、検査上の骨密度を改善することだけではない。最終的には、患者の生活や生命予後にも影響する「骨折」を防げるかどうかが問われる。

その意味で、今回観察された変化は非常に大きい。

ただし、この「94%」という数字の解釈には重要な注意点がある。

骨そのものにも変化が確認された

骨折数だけではなく、骨組織にも変化が見られた。

治療から約4カ月後に実施された骨生検では、評価可能だった患者で骨組織面積の増加が確認された。Medical Xpressは、平均骨組織面積が約2倍になったと報告している。

さらに2年後の画像評価では、海綿骨内部の容積骨密度にも改善が認められた。

血液検査でも骨形成に関連する骨代謝マーカーが上昇し、その変化は1回の投与後6カ月以上持続した。

患者が感じる症状にも変化があった。

24カ月時点では骨痛が34%減少し、身体機能障害を示すスコアも30%改善したと報告されている。

骨折の減少だけが単独で観察されたのではなく、骨組織、骨密度、骨形成マーカー、症状という異なる指標が同じ方向へ動いたことは、今回の結果を考えるうえで興味深い点だ。

なぜ普通の幹細胞ではなく「骨指向性」なのか

今回の研究で重要なのは、「幹細胞だから骨が再生した」という単純な話ではない。

鍵となるのは、細胞を目的の組織へ届ける技術だ。

MSCには骨形成を促す可能性がある一方、静脈投与しても骨へ効率よく到達できないという問題がある。研究チームは、MSC表面にsLeXを発現させることで、この問題を解決しようとした。

sLeXを備えた細胞は、骨髄血管に存在するE-selectinとの相互作用を利用して骨髄へ移動しやすくなる。

つまり今回の治療は、細胞そのものを大きく別物へ変えるというより、患者自身の修復細胞に「目的地へ到達する能力」を付加することに特徴がある。

これは骨粗しょう症だけにとどまらない考え方でもある。

細胞治療では「どの細胞を使うか」と同時に、「その細胞を必要な場所へどう届けるか」が治療効果を左右する。今回の研究は、そのデリバリーの問題を細胞表面の糖鎖加工によって解決しようとした例といえる。

高齢患者自身の幹細胞でも機能した

もう一つ、研究者が注目している点がある。

今回使用されたのは、健康な若者から採取した細胞ではない。

実際に進行した骨粗しょう症を持つ患者本人の骨髄から採取されたMSCだ。

MSCを使った再生医療では、高齢者や疾患を持つ患者から得た細胞では機能が低下している可能性が以前から問題視されてきた。

しかし今回の研究では、そうした患者由来の細胞であっても、骨へのホーミング能力を付与することで、骨形成を示唆する変化が観察された。論文の著者らも、この結果は「高齢者や疾患部位由来のMSCは生物学的に機能不全である」という考えに反するものだとしている。

患者自身の細胞を利用できれば、他人由来の細胞を使用する場合とは異なる利点も期待できる。

安全性では重大な有害事象を認めず

第1相試験で最も重要な目的の一つが安全性だ。

今回の研究では、治療に関連する重大な有害事象は報告されなかった。Cell論文でも、静脈投与された細胞治療について安全性が確認されたことが主要な結果として挙げられている。

さらに、2年間の規定評価期間終了後も3年以上にわたって安全性の監視が続けられた。

1回の投与で長期間追跡した点は重要だが、10人という規模では、まれな副作用まで評価することはできない。

安全性についても「問題がないことが証明された」のではなく、今回の10人では重大な安全性シグナルが確認されなかったと理解する必要がある。

「94%減」をそのまま治療効果とは断定できない

今回の結果は印象的だが、研究デザインには大きな限界がある。

最大の問題は、参加者がわずか10人であり、無治療群や標準治療群などの独立した対照群が設定された大規模ランダム化比較試験ではないことだ。

94%という数字は、同じ患者たちの治療前2年間と治療後2年間の骨折発生を比較して算出されたものだ。

そのため、今回の試験だけから「この治療によって骨折リスクが94%低下する」と一般化することはできない。

患者選択、治療前後の生活状況、併用治療、偶然による変動などの影響を完全に排除することも難しい。

Natureも今回の研究を「small trial」と位置づけ、骨を標的とする骨髄細胞に再生医療としての可能性が示された段階として報じている。

つまり今回の成果は、治療法の完成ではなく、次の試験へ進む根拠がヒトで初めて得られたことに価値がある。

再生医療は「細胞を入れる」から「細胞を届ける」へ

今回の研究が示した考え方は、骨粗しょう症という一つの疾患を超えて興味深い。

これまでの再生医療では、どのような幹細胞を使えば組織を再生できるのかという「細胞の能力」に注目が集まりやすかった。

しかし、どれほど有用な細胞であっても、必要な組織へ到達できなければ十分な効果は期待できない。

今回の治療は、その問題に対して細胞表面の糖鎖を加工し、骨へ向かう性質そのものを与えた。

いわば、細胞を薬として使うだけではなく、「薬である細胞の行き先」まで設計する治療だ。

10人という小規模な初回ヒト試験から、骨粗しょう症の新たな標準治療が生まれたと判断することはまだできない。

それでも、1回の静脈投与後に骨折、骨組織、骨密度、骨代謝マーカーという複数の指標で変化が確認され、その一部が長期追跡でも維持されたことは、次の臨床研究につながる重要な結果だ。

今後の焦点は、より多くの患者を対象とした対照試験で同じ結果が再現されるのか、既存治療と比較してどの程度の利益があるのか、そして長期的な安全性を確立できるのかに移る。

出典

Cell
Glycocalyx-edited mesenchymal stem/stromal cell therapy in advanced osteoporosis

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次