「病院経営に正解は1つではない」山元記念病院副院長が語った、“経営を学ぶ医師”の重要性

医療業界では現在、「良い医療を提供するだけでは病院は維持できない」という現実が急速に広がっている。人口減少、人材不足、診療報酬改定、医療DX、地域医療構想――。医療機関を取り巻く環境はかつてないほど複雑化しており、現場の医師にも“経営視点”が求められる時代に入っている。

その象徴とも言えるのが、山元記念病院 副院長の山元芙美 氏が語ったインタビュー内容だ。

医療・介護経営誌『日経ヘルスケア』の年間セミナー「病院経営プロフェッショナル育成塾」を受講した山元氏は、その経験を通して「病院運営に絶対的な正解は存在しない」と実感したという。

この言葉は、現在の日本の医療業界が抱える問題そのものを表している。

目次

「経営は分からない」という医師が少なくない現実

山元氏はインタビューの中で、育成塾への参加は自ら希望したわけではなく、「組織として同じ研修を受ける流れ」の中で参加したと語っている。

ここには、現在の医療現場が抱える大きな課題が表れている。

多くの医師は医学教育を受けて育つ。しかし病院経営、組織運営、人材マネジメント、財務、地域戦略について体系的に学ぶ機会はほとんどない。副院長や院長になって初めて、「病院全体を見る視点」が必要になるケースも少なくない。

山元氏自身も、「会議に何となく参加している感覚だった」と率直に語っている。

だが現在の病院運営では、現場だけを理解していても十分ではない。医療政策、診療報酬、人材配置、ベッドコントロール、地域連携まで含めて理解しなければ、病院全体を維持できない時代になっている。

そのため近年では、医師自身が経営を学ぶ流れが急速に強まっている。


「正解は1つではない」と気づいた瞬間

今回のインタビューの中で最も印象的なのは、山元氏が繰り返し語っていた、

「病院運営に正解は1つではない」

という言葉だ。

育成塾ではケースディスカッション形式で議論が行われたという。例えば、「次期院長候補2人のどちらを選ぶべきか」といったテーマについて、多職種がそれぞれの立場から意見を出し合う。

その中で山元氏は、最初は「それは違うでしょう」と感じることも多かったと振り返る。しかし議論を重ねるうちに、「立場が違えば見え方も違う」ということを理解できるようになったという。

これは現在の病院経営において極めて重要な視点である。

かつての病院運営では、トップダウン型の意思決定が強かった。しかし現在は、医師、看護師、リハビリ、薬剤師、事務、地域連携室、経営陣など、多職種連携なしでは病院運営そのものが成立しない。

つまり現代の病院経営では、「誰か1人の正解」ではなく、「複数の視点を統合する力」が重要になっているのである。


医師だけでは見えない“経営視点”

山元氏は、「医師だけでは気づけない視点がある」とも語っている。

特に興味深いのが、「病院経営と一般企業の違いは何か」という問いに対し、「医師がいること」という答えが医師以外から出たというエピソードだ。

医師にとって、医師が病院にいるのは当たり前である。しかし経営視点で見れば、医師1人の配置、専門性、働き方、意思決定が病院全体の経営に大きな影響を与える。

つまり、“医師という存在そのもの”が病院経営の中核資源なのだ。

近年、多くの医療機関で「医師の経営参画」が求められている背景には、この問題がある。

病院は医療だけでは成立しない。
しかし医療抜きでも成立しない。

この両方を理解する人材が、今後さらに重要になっていく。


ベッドコントロールは「利益」の話ではない

インタビューの中でも特に印象的だったのが、ベッドコントロールに対する考え方の変化である。

一般的にベッドコントロールという言葉には、「収益管理」のイメージが付きまといやすい。しかし山元氏は、「本質は患者さん一人ひとりの入院計画をどう設計するかにある」と語っている。

例えば、早期リハビリや栄養指導には診療報酬上の加算が付く。しかしこれは単なる“点数稼ぎ”ではない。

患者に必要な医療だからこそ、制度上評価されている。

この視点は非常に重要である。

現在、多くの医療現場では「加算取得」が目的化してしまうケースもある。しかし本来の意味を理解しなければ、現場は単なる“作業化”してしまう。

なぜそれを行うのか。
患者にどんな価値があるのか。
病院としてどんな医療を提供したいのか。

こうした目的共有こそが、組織改革の本質だという考え方が、山元氏の言葉から強く伝わってくる。


人口減少時代の病院は「地域の一部」になる

山元記念病院がある佐賀県伊万里市では、人口減少や人材不足が既に深刻化している。

そのため同院では、中高生向けの職業体験を継続的に実施しているという。

これは単なる地域貢献活動ではない。

将来の医療人材育成でもあり、地域との関係構築でもあり、病院存続戦略の一部でもある。

実際、過去に職業体験へ参加した学生が、後に医療職として戻ってきたケースもあるという。

ここには、これからの地域病院の重要なヒントがある。

今後の病院は、「医療を提供する施設」だけでは生き残れない可能性が高い。地域住民、学校、行政、介護施設、ボランティアなどと連携し、“地域インフラ”として存在する病院が重要になっていく。

つまり病院経営とは、単なる財務管理ではなく、「地域そのものをどう支えるか」という視点へ変化しているのである。


「経営を知る医師」が今後さらに必要になる

今回のインタビュー全体を通して見えてくるのは、医療業界そのものの変化だ。

以前は、「良い医療を提供すること」が病院の中心だった。しかし現在はそこに加えて、

人材をどう確保するか。
地域でどう存在するか。
医療DXをどう進めるか。
多職種をどうまとめるか。
患者満足と収益をどう両立するか。

という“経営的視点”が不可欠になっている。

だからこそ今後は、「診療だけできる医師」ではなく、「病院全体を理解できる医師」の価値がさらに高まっていく可能性が高い。

山元氏が最後に語った、

「歩みを止めてはいけない」

という言葉は、現在の医療業界全体にも当てはまるのかもしれない。


出典

日経ヘルスケア
厚生労働省 地域医療構想
厚生労働省 地域包括ケアシステム
厚生労働省 診療報酬改定
厚生労働省 医師の働き方改革
日本病院会
日本医師会
総務省 地域医療確保対策

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