病院職員の保険制度を見直したら医療が変わった 米病院、年間約2億円削減で診療体制を強化

医療機関にとって、人件費と並ぶ大きな負担の一つが職員向け医療保険である。近年のアメリカでは、医療費の高騰や高額薬剤の普及、メンタルヘルス関連費用の増加などを背景に、企業や病院が負担する健康保険料は過去最高水準に達している。

こうした状況の中、米インディアナ州の地方病院が従来の団体医療保険を見直し、新たな制度へ移行したことで年間約200万ドル(約2億円)の保険料削減を実現した。この削減分を新たな診療サービスや医療機器へ再投資した取り組みが注目を集めている。

目次

保険制度を抜本的に変更

取り組みを行ったのは、インディアナ州ラッシュビルにある25床の地域病院「Rush Memorial Hospital」である。

同院は2024年末、従来の企業向け団体医療保険を廃止し、「ICHRA(Individual Coverage Health Reimbursement Arrangement)」へ全面移行した。

ICHRAは、企業が従業員へ毎月一定額の非課税手当を支給し、従業員自身が公的医療保険マーケットプレイスから希望する保険商品を自由に選択する制度である。

企業が一律の保険を契約する従来型とは異なり、従業員の年齢や家族構成、ライフスタイルに応じた保険を選択できる点が特徴となっている。

年間約45%のコスト削減

制度変更によって病院の医療保険関連支出は約45%減少し、年間約200万ドルの保険料削減につながった。

病院側は、この削減を一時的な利益ではなく、毎年継続して得られる財源と位置付けている。

その結果、2023年には資金不足から延期されていた新規サービスの導入や設備投資が可能となった。

削減分を患者医療へ再投資

病院では削減した費用を診療体制の強化へ充てている。

その一例が、看護師同士がリアルタイムで情報共有できる新たな通信システムの導入である。

数十万ドル規模の投資となるこのシステムは、以前から必要性が指摘されていたものの、十分な予算を確保できず導入が見送られていた。

現在では病棟と救急外来間で迅速な情報共有が可能となり、患者対応の効率化や医療安全の向上につながっているという。

病院側は、こうした設備投資が患者ケアの質向上に直接結び付いていると説明している。

職員にも選択肢が広がる

制度変更は病院経営だけでなく、職員側にもメリットをもたらした。

新卒の看護助手から子育て世代の看護師、退職を控えたベテラン職員まで、それぞれの生活に合わせて保険商品を選択できるようになった。

病院には約370人の職員が在籍し、そのうち約220人と家族が新制度へ加入している。

また、従業員本人だけでなく、配偶者を新制度へ切り替えるケースも増えており、人材確保や定着にも好影響がみられているという。

地方病院が抱える経営課題

地方病院では都市部に比べ患者数が限られる一方、人件費や医療材料費は年々増加している。

さらに、職員向け医療保険料の上昇は経営を圧迫する大きな要因となっており、サービス縮小や設備更新の延期を余儀なくされる医療機関も少なくない。

Rush Memorial Hospitalでは、保険制度そのものを見直すことで経営改善を図り、その成果を患者医療へ還元するという新たなアプローチを示した。

福利厚生改革が病院経営を変える可能性

ICHRAは2020年に制度化された比較的新しい仕組みであり、中小企業を中心に導入が拡大している。

病院業界でも関心が高まっており、Rush Memorial Hospitalには他の中小病院から問い合わせが相次ぎ、一部では同様の制度へ移行する医療機関も現れている。

医療費が上昇し続ける中、福利厚生制度そのものを見直し、経営改善と医療の質向上を両立させる取り組みは、今後の病院経営における新たな選択肢となる可能性がある。


出典
Becker’s Hospital Review
「Indiana hospital credits expanded services to employee health insurance switch」

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