難治性がんの代表とされる膵臓がんで、新たな治療法への期待が高まっています。新薬daraxonrasibは第3相試験で化学療法と比較して死亡リスクを60%低減。さらにmRNA技術を用いた個別化がんワクチンの研究も進んでいます。
膵臓がん治療で大きな転換点
米国で、膵臓がん治療を大きく変える可能性のある研究成果が相次いでいる。
注目を集めているのが、新たなRAS阻害薬「daraxonrasib」だ。
Dana-Farber Cancer InstituteのBrian Wolpin医師が米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で研究結果を発表した際には、会場からスタンディングオベーションが起きた。研究に関わる専門家からは、膵臓がん治療の歴史において極めて重要なブレークスルーとの評価も出ている。
膵臓がんは米国におけるがん死亡原因の第3位で、5年生存率はわずか13%。他のがんでは免疫療法や分子標的治療が大きな進歩をもたらしてきたが、膵臓がんでは十分な効果を得ることが難しかった。
約80%は手術できない段階で発見
膵臓がんの治療が難しい理由の一つが、早期発見の難しさだ。
現時点では有効な早期発見のための検査やスクリーニングがなく、膵臓自体も腹部の深い位置に存在する。初期症状も痛みや胃腸の不調、軽度の黄疸など、加齢に伴う一般的な症状と区別しにくい場合がある。
その結果、膵臓がんが発見された時点では、約80%がすでに手術できない段階に進行し、他の部位へ転移していることも多い。
さらに、膵臓がんでは腫瘍周辺に強固な「間質(stroma)」が形成される。腫瘍の塊のうち、がん細胞そのものは約10%にすぎず、この構造が薬剤や免疫細胞の到達を妨げる。
こうした特徴も、他のがんで成果を上げている免疫チェックポイント阻害薬などが膵臓がんでは十分な効果を示しにくい理由となっている。
KRASを狙う新薬「daraxonrasib」
Daraxonrasibは、がんの増殖に関係するRASと呼ばれる遺伝子群を標的とする新しいRAS阻害薬の一つだ。
特に標的となるのが「KRAS」である。最も一般的な膵臓がんである膵管腺がんの90%以上でKRAS変異が確認されており、膵臓がんを増殖させる中心的な遺伝的要因と考えられている。
KRASは長年、薬剤が結合できる場所を見つけにくいことから、治療標的にすることが極めて困難とされてきた。
Daraxonrasibなどの新しい薬剤は、補助タンパク質を利用してKRASへ結合し、がん細胞の増殖につながるシグナルを遮断することで腫瘍の縮小を狙う。
死亡リスクを60%低減
特に注目されているのが第3相試験の結果だ。
化学療法で十分な効果が得られなかった患者を対象とした試験で、daraxonrasibは化学療法と比較して死亡リスクを60%低減した。
生存期間も1年以上となり、化学療法のみを受けた患者のおよそ2倍に延長した。
さらに、daraxonrasibは1日1回服用する経口薬で、副作用は胃腸症状や発疹などが中心とされ、従来の化学療法と比較すると比較的軽度だった。試験参加者からは、日常生活を送れるようになったとの声も報告されている。
現時点でdaraxonrasibはFDAの承認をまだ受けていないものの、研究結果を受けてExpanded Access(拡大アクセス、いわゆるコンパッショネートユース)による提供が始まっている。記事では2026年秋後半の承認が期待されているとしている。
80以上のRAS阻害薬が臨床試験へ
Daraxonrasibだけが開発されているわけではない。
現在、80以上のRAS阻害薬が臨床試験に入っており、膵臓がんだけでなく他のがんへの応用も研究されている。
また、daraxonrasibの今回の結果は単剤治療によるものだ。がん治療では複数の薬剤を組み合わせることでさらに高い効果が得られるケースも多いため、化学療法など他の治療法との併用試験も進められている。
mRNAを使った「個別化がんワクチン」も
膵臓がん治療では、もう一つ異なるアプローチも注目されている。
Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)の研究チームは2026年4月、mRNA技術を利用した個別化がんワクチンの第1相試験結果を発表した。
研究では16人の患者から手術によって腫瘍を摘出し、それぞれの腫瘍の遺伝子解析を実施。患者ごとの変異に合わせた個別化ワクチンを製造した。
その後、免疫チェックポイント阻害薬、ワクチン、化学療法、追加のワクチンという順番で治療が行われた。
一部患者では術後4~6年の長期生存
16人のうち半数では、ワクチンによって腫瘍を認識する免疫反応が活性化し、がん細胞を攻撃するT細胞が誘導された。
このT細胞が確認された患者のうち7人は、手術から4~6年後も生存していた。研究者によると、6年時点の生存率は約90%に近い結果だった。
一方、免疫反応が確認されなかった8人では生存していたのは2人で、生存期間中央値は3.4年だった。
さらにワクチンによって形成された免疫反応は長期間維持され、接種から最大5年後でも標的を認識する免疫細胞が確認されている。
現在、この個別化がんワクチンはより多くの患者を対象とした第2相多施設試験へ進んでいる。
「最も難しいがん」を攻略できるか
今回の研究成果が注目される理由は、膵臓がんだけにとどまらない。
RAS遺伝子は多くのがんに関係しており、RAS阻害薬の研究成果が他のがん治療へ応用される可能性がある。
また、これまで免疫療法が効きにくいと考えられてきた膵臓がんでmRNAワクチンによる強い免疫反応を引き起こせるのであれば、第一世代の免疫療法では治療が難しかった他のがんにも応用できる可能性がある。
膵臓がんは依然として極めて治療の難しい疾患であり、daraxonrasibも未承認、個別化mRNAワクチンも第2相試験の段階にある。
それでも、長年治療の進歩が限られてきた膵臓がんで、異なるアプローチから有望な結果が同時に現れ始めたことは大きな変化といえる。
「最も治療が難しいがん」の一つを攻略する研究が、膵臓がんだけでなく、今後のがん治療全体を変える可能性を秘めている。
出典
NewsWire
New hope for one of the deadliest cancers


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